· 

「Space In-Between:吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン」展より

 

本展はスイスを代表するグラフィックデザイナー、タイポグラファーであるヨゼフ・ミューラー=ブロックマン(1914‐1996)と、そのパートナーであり芸術家の吉川静子(1934‐2019)の二人の活動と作品を紹介するものです。吉川とミューラー=ブロックマン双方にとっての二による初となる大規模な回顧展として開催されます。

吉川とミューラー=ブロックマンは、それぞれ進むべく道を開拓しながら、夫婦として独創的な生涯を共にしました。吉川は人生の大半をスイスで過ごし、1960年代・70年代に抽象絵画と彫刻により女性芸術家として注目されます。一方ミューラー=ブロックマンは、洗練されたタイポグラフィと「グリッドシステム」によるグラフィックデザイナーで、1950年代以降スイスを代表するデザイナーとして国際的に知られるようになりました。

本展では、吉川の芸術性、ミューラー=ブロックマンの構成的デザインを表現した作品を展示。分野を超えた二人の活動の軌跡を堪能できる大回顧展です。

 

 

見どころ

 

〇スイスを代表する国際的なタイポグラファーでありグラフィックデザイナーのヨゼフ・ミューラー=ブロックマン(1914‐1996)と、そのパートナーであり芸術家の吉川静子(1934‐2019)の没後初、世界初の大規模な二人展

 

〇デザインとアートの豊かな融合、スイスと日本の唯一無二の交流の実例となる展示内容

 

〇スイスから約130点の吉川静子作品が来日。日本初お披露目

 

〇ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン作のグラフィック作品を展示

 「グリッドシステム」の原点、『ノイエ・グラフィーク誌』も展示

 

჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻

 

第1章 Space In-Between:吉川静子

 

1.初期作品「シークエンス」と「トランスフォーメーション」

 

デザインからアートへ舵を切った吉川がアーティストとして活動を始めた当初の作品群を紹介します。小さな凹凸の集合による正方形の立体彫刻は色面の差異によって連続したシリーズをなして、こうした「シークエンス」や「トランスフォーメーション」は、ヘリット・リートフェルト(1888‐1964)からマックス・ビル(1908‐94)に代表されるウルム造形大学教授陣へ継承された「コンクリート・アート」の流れを汲む作品群です。デザイナーとして確かな基礎力を身につけた吉川は、この立体彫刻によってアーティストとして第一歩を踏み出します。ここから、建築作品や公園も実現しており、建築からデザイン、デザインからアートへと学びを深めた吉川の芸術性は大きく開花していきました。

 


 

2.瞬間性と空気感の表現 「色影」

 

「シークエンス」「トランスフォーメーション」で色面表面の転換と連続性に取り組んだ吉川は、次は、立体彫刻の表面にではなく、凹凸の薄いわずかな側面のみに色を塗った「色影」というシリーズに取り組んでいきます。ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンと一緒の二人のアトリエで、まるで科学実験を行うかのように微量の絵具を足して調合し、色を塗っていきました。「色影」は角度を変えることで見え方が変わっていく作品です。側面の色が残像となって白い表面を覆って、一瞬一瞬で見え方が移り変わります。伝統的なコンクリート・アートから離れ、瞬間性や空気感をテーマにし始めたシリーズであり、色は光や影、隣り合う色によっても見え方が変わる相対的なものであるという理論に基づいています。

 

 

3.対立と空隙の果てしないエネルギー 「宇宙の織りもの」

 

「色影」で立体彫刻によって色彩の見え方の移り変わりに取り組んだ吉川は、今度は平面のカンヴァスによる表現に取り組んでいきます。十文字をモチーフに二つの線が重なる点をぽっかりと穴をあけたような空隙にして、その形を大きくしたり小さくしたりして、白いカンヴァスにただただ重ねていくのです。十文字の空隙に挟まれた向かい合わせになった色彩は、その多くが補色の関係にあります。対立と空隙とを重ねることで、平面でありながら立体性を帯び、内部は果てしない宇宙のようなエネルギーに満ちています。色彩と空隙の緻密な効果によって、カンヴァス全体が、神秘の高貴な光に覆われているかのようです。このシリーズは、さまざまな形のカンヴァスで展開され、多数のバリエーションが残されています。

 

 

4.太陽の生命力 「ローマ」

 

ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンが万里の長城を旅行中に倒れそのまま帰らぬ人となったのは、吉川静子にとって大きすぎる精神的な痛手でした。二人で暮らした自宅兼アトリエにいるのが耐えられず、3年にわたり、冬の期間はローマに場所を移して滞在制作を行います。ある日、ローマで見た太陽の、燃えるような生命力に感動し再び生きる力をもらった吉川は、これをテーマに再び制作に取り組みます。最初に描いた地平線に沈む赤々とした太陽の姿は、燃えたぎるようです。色彩や表現を変えてさまざまなヴァリエーションが生み出されていきました。吉川が受けた太陽の生命力そのものをテーマにした作品から、色彩や宇宙といった、吉川が「宇宙の織りもの」で行ったテーマへの変遷も見られます。

 

 

5.ルーツといのち 「マイ・シルクロード」「生命の脈動」

 

ローマからスイスに戻ってから、吉川はシルクロードをテーマにしたシリーズを制作します。吉川にとってのシルクロードは、ウルム造形大学に入学した際に渡った海の道でした。スエズ運河経由で日本からドイツへ移動した吉川静子が航路で見たコバルトブルーの夜空を背景とした星空、永遠に続く海の水面に宿る光を、「宇宙の織りもの」シリーズの十文字型で表現しています。こうした十文字型のモチーフは「生命の脈動」シリーズでは消え、代わりに軽やかなドットがキャンパスに置かれています。動きを孕んだドットの連続は、「宇宙の織りもの」のような内的エネルギーを帯び、内なる動きと生命力を感じさせます。これまで、宇宙や太陽など自然界のエネルギーをテーマにしてきた吉川は、晩年には、今度は内なる生命力に目を向け、制作を続けたのです。

 


 

第2章 Space In-Between:ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン

 

1.初期作品 ラッパースヴィールのために

 

チューリッヒ湖畔の町、ラッパースヴィールに生まれ育ったヨゼフ・ミューラー=ブロックマンが、バラ庭園で有名な故郷のために制作したポスター他、初期作品を紹介します。キャリアをスタートさせる前には、自画像やスケッチなどの絵を数多く描いていたミューラー=ブロックマンでしたが、チューリッヒ工科大学で学びデザイナーとして本格的に活動を始めると、画面上にイラストレーションと文字を構成したポスターを制作するようになります。大学の教授陣や同時代のグラフィックデザインから影響も伺える作品群です。

 

 

2.ヴィジュアル・コミュニケーションとフォトコラージュ

 

ミューラー=ブロックマンは、先駆的に写真をポスターに取り入れたデザイナーでもありました。スイス自転車クラブのシリーズはその代表的な例です。フォトコラージュによってモチーフの比率を変え、インパクトを与える表現を行っています。1960年代以降のポストモダニズムのデザインにおいては、「ヴィジュアル・コミュニケーション」という言葉がデザインの命題として求められるようになりました。デザインはこうであるべきという作り手の思想の確立を希求した時代から、受け手にどのように伝わるかにデザインの命題が移り変わっていく中で、ミューラー=ブロックマン作品は、次なる世界的なデザイン潮流の中でお手本となったのです。

 

 

3.音楽とデザイン

 

交通事故で不慮の死をとげた最初の妻、フェレーナ・ブロックマンはヴァイオリニストで、チューリッヒ管弦楽団ほかチューリッヒのいくつかの楽団に属す音楽家でした。こうして音楽への道に導かれたミューラー=ブロックマンは生涯にわたって多数のコンサートのポスターを手掛けています。中でも「ベートーベン」のポスターは、日本でも1958年『アイデア』誌に紹介された代表作です。「ムジカ・ヴィヴァ」シリーズにおいて、グリッドシステムのさまざまなバリエーションとタイポグラフィとに絶妙な色彩感覚が重なり、音楽ポスターにふさわしい豊かなハーモニーが奏でられています。

 

 

4.グリッドシステム

 

タイポグラフィ、イラストレーション、写真をどのように紙面上に構成するかということについては、1920年代以降ヨーロッパのデザイナー、芸術家を中心にさまざまに試み、提唱、実践されてきました。ミューラー=ブッロックマンはこうした構成の流れをまとまると共に、空間や地理をも含むさまざまな実践の例を交えつつ、『グリッドシステム』(1981年初版)とし理論書をまとめています。「ノイエ・グラーフィク」誌は、グリッドシステムが実践された、ミューラー=ブロックマン他による雑誌です。多言語による文字組と写真の緻密な紙面は、模範的なグリッドシステムによるものでした。

 

 

 

【展覧会概要】

 

展覧会名:Space In-Between:吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン

会  期:2024年12月21日(土)~2025年3月2日(日)

休  館  日:毎週月曜日、12月31日(火)、2025年1月1日(水・祝)、14日(火)、2月25日(火)

     ※2025年1月13日(月・祝)、2月24日(月・休)は開館

観覧時間:10:00~17:00(入場は16:30まで)

観  覧  料:一般  1,700円(団体 1,500円)

     高大生 1,100円(団体 900円)

     ※税込価格

     ※団体料金は20名以上。団体鑑賞をご希望される場合は事前に大阪中之島美術館公式ホームページからお申し込みくださ

      い。

     ※学校団体の場合はご来場の4週間前までに大阪中之島美術館公式ホームページ学校団体見学のご案内からお申し込みく

      ださい。

     ※障がい者手帳などをお持ちの方(介護者1名を含む)は当日料金の半額(要証明)。

      ご来館当日、2階のチケットカウンターにてお申し出ください(事前予約不要)。

     ※本展は、大阪市内在住の65歳以上の方も一般料金が必要です。

     ※事前予約制ではありません。展示室内が混雑した場合は、入場を規制する場合があります。

     ※災害などにより臨時休館する場合があります。

     [相互割引] 本展観覧券(半券可)の提示で、4階で開催中の「歌川国芳  ー奇才絵師の魔力」

       2024年12月21日(土)~2025年2月24日(月・休)の当日券を200円引きでご購入いただけます。

       (1枚に付き1名様有効。チケット購入後の割引および他の割引との併用は不可)

会  場:大阪中之島美術館  5階展示室 (〒530‐0005 大阪府大阪市北区中之島4-3-1)

     https://nakka-art.jp

主  催:大阪中之島美術館

特別協力:Shuzuko Yoshikawa and Josef Müller-Brockmann Foundation

協  賛:大阪芸術大学

後  援:在日スイス大使館

助  成:一般財団法人 安藤忠雄文化財団