特別展『文明の十字路 バーミヤン大仏の 太陽神と弥勒信仰 ー ガンダーラから日本へ ー』が4月20日(土)から6月16日(日)まで、京都市の龍谷ミュージアムで始まりました。
アフガニスタンのバーミアン遺跡は、ヒンドゥークシュ山脈の山中にあり、多様な文化が行き交った、「文明の十字路」です。残念ながら、有名な2体の大仏は、2001年3月、イスラム主義勢力タリバンによって爆破され、周辺の壁画も失われましたが、今回、過去の写真等をもとに、この壁画の新たな描き起こし図(描かれているものの輪郭や細部を線で表現した線図、宮治昭監修・正垣雅子筆)が完成しました。
本展では、その現図を展示し、壁画に表された太陽神の姿や、弥勒菩薩が住む兜率天の様子を紹介します。さらに中央アジアで発展した弥勒信仰が、東アジアへと伝わって多様な展開を遂げる様子を追っていきます。インド・ガンダーラや中国、日本の絵画や彫刻など約130件を通じて、太陽神、弥勒に対する信仰の広がりをたどります。
玄奘(600(602)~664)
三蔵法師(経・律・論からなる仏教聖典全部に精通した僧)の名で知られます。河南省出身の僧侶、大翻訳家。アビルダルマ論や唯識学を原典について論究しようと独力で629年、長安を出発し、幾多の困難も経て新彊省の北路・西トルキスタン・アフガニスタンからインドに入り、ナーランダー寺でシーラバトラ(戎賢)に学び、インド各地の仏跡を訪ね、再び中央アジア・新彊省の南路を経て、645年帰国しました。仏像・仏舎利のほか657部に及ぶ原典を持ち帰り、彼のために建てられた長安の翻経院等で19年間多くの弟子たちとともに仏典漢訳の大事業を行います。主な漢訳書は大般若経600巻・瑜伽師地論100巻・大毘婆沙論200巻、倶舎論・成唯識論・摂大乗論等、インドで学んだ新しい仏教を紹介しました。彼の翻訳は原典に忠実で彼以前の漢訳を旧訳(くやく)と呼び彼の新訳と区別されます。
原典研究の後継者はいませんが、彼が伝承考究した唯識学が法相宗の初祖とされる窺基(きき)を中心に彼の門下に栄えました。
また彼の前代未聞の地誌「大唐西域記」はインド・中央アジアを知る資料として尊重されるばかりでなく、10世紀以後は講談の材料とされ、四大奇書の西遊記にまで発展し普及しました。
バーミヤン遺跡は、アフガニスタンの首都・カブールから西北西に約120km、標高2,500mの高地にあります。6世紀頃から交易路の要衝となり、多様な人々が往来したことによって、独自の文化が生まれました。現在も、バーミヤン渓谷全体に仏教石窟や城跡址などの遺跡が分布し、ユネスコの世界遺産に登録されています。
1.バーミヤン遺跡と東大仏の太陽神
唐の仏教僧・玄奘は、630年頃に実際にバーミヤンを訪れて、大仏の姿を詳しく伝え、東大仏を「釈迦仏」と呼んでいます。
本章では、バーミヤン遺跡と玄奘の姿、そして彼の旅行記『大唐西域記』を紹介します。続いて東大仏(釈迦仏)の頭上に描かれたゾロアスター教の太陽神・ミスラの壁画の描き起こし図を見つつ、太陽神と仏教の関係に迫っていきます。
インドの太陽神・スーリヤ
インド地域でも、ミスラと同じ語源を持つミトラ神が古くから存在していましたが、太陽神として後世まで信仰されているのはスーリヤ神です。紀元前2世紀頃には、ギリシアの太陽神・ヘリオスの図像がインドに伝わり、スーリアの姿も造形されるようになりました。馬車に乗る姿はミスラ神と共通していますが、その手に蓮華を執る点や、両脇の女神が2人とも弓を引いている点など、いくつかの違いも認められます。
東大仏の頭上に表されたゾロアスター教の太陽神・ミスラの姿。壁画そのものは六世紀後半に描かれたと考えられる。
仏教経典において、開祖の釈迦はしばしば太陽に例えられ、彫刻においても太陽神と似た姿で表現される。
第2章 西大仏の兜率天と弥勒
玄奘は、西大仏の尊格に言及しませんが、研究の進展により、西大仏は「弥勒仏」であり、その頭上に描かれていたのは、弥勒菩薩が住む「兜率天」の様子であったと考えられます。
本章では、西大仏天井壁画の新たな描き起こし図をご覧いただくとともに、バーミヤンにおける弥勒信仰のあり方を紹介していきます。
バーミヤン西大仏龕壁画 描き起こし図
宮治昭 監修・正垣雅子 筆
日本 2023年 龍谷ミュージアム
西大仏の周囲に描かれた兜率天の様子。
壁画そのものは、6世紀末~7世紀初頭に描かれた。
残念ながら、中央上部に描かれていたはずの弥勒菩薩は、20世紀の段階でほとんど剥落していた。
(部分)坐仏列の中には、豪華な肩掛けをまとった「飾られた仏陀」の姿が見える。
・研究ノート
・バーミヤン石窟壁画 描き起こし図
宮治昭 筆
日本 1960~1970年代 京都大学ほか
西大仏龕壁画 模写
「菩薩と天人たち」
松村公太 筆
原品:バーミヤン
2007年(原品:6世紀末~7世紀初頭)
中部大学民族資料博物館
第3章 アジアに広がる弥勒信仰
釈迦のあとを継ぎ、未来にブッダとなる弥勒に対する信仰は、すでに2~3世紀頃のガンダーラ地方(現在のパキスタン北西部からアフガニスタン南東部にかけての地域)において非常に盛んでした。さらにその後、バーミヤンを含む中央アジアで大きく発展し、下生信仰、上生信仰と呼ばれる独自の信仰形態を生み出していきました。
本章では、中央アジアから中国・朝鮮半島に大きく展開する弥勒信仰の様子をご覧いただき、弥勒の世界の奥の深さに触れていただきます。
◀弥勒菩薩は、2世紀前半にはすでに、髪を結い上げ、左手に水瓶を持つ姿で表されることが通例となっていた。
ガンダーラにおいて、蓮華を持つ蓮華を持つ半跏思惟像は、観音菩薩と深い関係があった。
一方、中国では、単独の半跏思惟の菩薩像は弥勒との関係が深く、兜率天を思い描く(思惟する)ための導き手であった。
第4章 弥勒信仰、日本へ
ガンダーラから中央アジアで大きく展開した弥勒信仰は、日本にもいち早く伝わり、当初から弥勒像が重要な尊像として祀られました。なかでも、奈良時代に発展した法相宗の寺院では、ことのほか弥勒信仰が盛んとなります。平安時代後期以降も、末法思想の流行に伴って、未来仏である弥勒に対する信仰は一層高まりを見せました。
本章では、密教や阿弥陀信仰とも関係を持ちながら、独自に発展していった日本の弥勒信仰と、さまざまな弥勒の姿をご覧いただきます。
聖徳太子の時代にすでに、弥勒像が日本にもたらされたという。
日本では古くから、如来形と菩薩形の両方の弥勒が制作されてきた、
京都の笠置寺には弥勒の摩崖仏が存在しており、弥勒信仰の拠点となった。
【開催概要】
会期 2024年4月20日(土)〜2024年6月16日(日)
会場 龍谷大学 龍谷ミュージアム
住所 600-8399 京都府京都市下京区堀川通正面下る(西本願寺前)
時間 10:00〜17:00(最終入館時間 16:30)
休館日 月曜日(ただし、4月29日(月)、5月6日(月)は開館)、4月30日(火)、5月7日(火)
入館料 一 般 1,600(1,400)円、高大生 900(700)円、小中生 500(400)円
小学生未満:無料
障がい者手帳等の交付を受けている方及びその介護者1名:無料
(手帳またはミライロIDを受付にてご提示ください)
※( )内は前売り・20名以上の団体料金
TEL075-351-2500
URL 展覧会特設ページ
https://museum.ryukoku.ac.jp/exhibition/2024/bunmei/
SNS https://twitter.com/ryukokumuse
主催 龍谷大学 龍谷ミュージアム、京都新聞、読売新聞社
特別協力 浄土真宗本願寺派、本願寺
協賛 (公財)仏教伝道協会
後援 京都府、京都市、京都府教育委員会、京都市教育委員会、(公社)京都府観光連盟、(公社)京都市
観光協会、NHK京都放送局、KBS京都、エフエム京都
協力 龍谷大学親和会、龍谷大学校友会
関連イベント/音声ガイド
【関連イベント】
<記念講演会>
※事前申し込み必要(龍谷ミュージアムHP内「お申込みフォーム」から)/ 聴講無料 / 先着150名 /観覧券必要(観覧後の半券可)
「釈迦・転輪聖王・弥勒の信仰と美術-ガンダーラから中国へ」(仮)
日 時 4月28日(日) 13:30 ~ 15:00
講 師 宮治 昭(元龍谷ミュージアム館長)名古屋大学・龍谷大学名誉教授
会 場 龍谷大学大宮キャンパス東黌101教室
「ミロクさんに会いたい!ー兜率天への思いと東アジアの造形ー」
日 時 5月12日(日) 13:30 ~ 15:00
講 師 泉 武夫 東北大学名誉教授
会 場 龍谷大学大宮キャンパス東黌101教室
「バーミヤン二大仏の仏龕壁画-太陽神ミスラと兜率天の弥勒」(仮)
日 時 6月2日(日) 13:30 ~ 15:00
講 師 宮治 昭(元龍谷ミュージアム館長)名古屋大学・龍谷大学名誉教授
会 場 龍谷大学大宮キャンパス東黌101教室
<スペシャルトーク>
※事前申込不要 / 聴講無料 / 先着30名 / 観覧券必要(観覧後の半券可)
講義室で学芸員が展覧会の見どころを解説します。
日 時 5月18日(土)/ 5月25日(土) 13:30 ~ 14:15
会 場 龍谷ミュージアム1階 101講義室
【音声ガイド】
ナビゲーター : 保志 総一朗(ほし そういちろう)さん
アニメ『機動戦士ガンダムSEED』(キラ・ヤマト役)、TVアニメ「異修羅」(鵲のダカイ 役)をはじめ、アニメ、ゲーム、洋画吹き替えのほか、ラジオ、CMなど幅広く活躍されている声優・歌手の保志総一朗さんが、作品の魅力をご案内します。
レンタル料金 700円(税込)
解説時間 約30分間
貸出場所 地下1階エントランスホール 音声ガイド貸出コーナー
ナビゲーター : 保志 総一朗(ほし そういちろう)さん
企画・制作:株式会社カセットミュージアム