日本の美術史上欠かせない画家・雪舟とその影響を受けた画家たちの作品を集めた展覧会『雪舟伝説 ー 「画聖(カリスマ)」の誕生』が京都国立博物館で開催されています。12日に行われた記者内覧会に行ってまいりました。
雪舟は日本の美術史上でもっとも重要な画家です。その雪舟にインスパイアを受けた画家たちもまた日本を代表する美術史上重要な画家たちです。本展で気を付けないといけないのは、展覧会タイトルに雪舟の名を冠してますが、雪舟のみを扱った展覧会ではなく、のちの画家たちがどのように雪舟を受容していったかを辿り、雪舟に対する評価がどのように形成され、「画聖」と仰がれてきたのかを検証するものです。
本展では雪舟の6点の国宝を含め多くの作品が展示されていますが、それは決して単純に作品が優れているという理由だけではありません。雪舟とその作品に対して歴史的に積み重ねられてきた高い評価があります。彼にインスパイアされた構成の画家、長谷川等伯、狩野探幽、曽我蕭白、伊藤若冲、円山応挙。尾形光琳、酒井抱一、他多数の著名画家たちの作品と比べてみることで、「画聖」雪舟の誕生の過程を明らかにしようとする展覧会です。
作品をそれぞれ同じ題材から見比べてみるととても楽しく時間を忘れて観覧できるでしょう。
(佐伯浩道)
国宝 秋冬山水図 雪舟筆 室町時代(15世紀) 東京国立博物館蔵[通期展示]
教科書などでもお馴染みでよく知られる雪舟の代表的な作品。
荒々しく強い筆致、独特の画面構成など、小画面に雪舟らしさが凝縮されています。昭和十一年までは京都の曼殊院に所蔵されていました。
国宝 天橋立図 雪舟筆 室町時代(16世紀) 京都国立博物館[通期展示]
雪舟が天橋立を克明に描いた大作。現地での写生をもとに晩年に描いたものと見られますが、下絵であり本画は現存しません。複数の地点から眺めた広範な景観を美しくまとめ上げる構成力に、雪舟の非凡な力量が見て取れます。
重要文化財 四季花鳥図屏風(右隻) 雪舟筆 室町時代(15世紀) 京都国立博物館[通期展示]
無款ながら雪舟筆と考えられている作品。山水画の印象が強い雪舟ですが、そればかりでなく、仏画や花鳥画も多く手掛けていました。原本に加え、雲谷等益による摸本(東福寺蔵)を通じて、多くの画家にインスピレーションを与えてきました。
富士三保清見寺図 伝雪舟筆 室町時代(16世紀) 東京・永青文庫蔵[通期展示]
富士山と三保松原、清見寺を安定した構図のうちにまとめ上げた作品で、熊本藩主細川家に伝来しました。江戸時代には雪舟が明で描いた作品と信じられ、数多くの後継作品を生み出しました。
雪舟受容の広がりとその多様性
狩野山雪、曾我蕭白、司馬江漢、鶴亭、山本探川、桜井雪館、原在中、狩野永岳といった錚々たる画家たちが富士山図を描いています。
富士山図 狩野探幽筆 江戸時代(17世紀)[通期展示]
探幽が数多く描いた富士山図のなかでも、破格のサイズを誇る大幅です。余白を広く取り、淡墨を主体とする表現は探幽ならではですが、その構図は明らかに伝雪舟筆『富士三保清見寺図』を踏襲したものです。しかるべき大名の求めに応じて制作されたと考えられます。
探幽縮図
雪舟筆自画像摸本
狩野探幽筆 江戸時代(17世紀) 京都国立博物館蔵
[通期展示]
江戸時代には、現在知られているよりもずっと多くの「雪舟画」が流通していました。もちろん、それらのすべてが雪舟の真筆であったわけではないでしょう。しかし、現在では雪舟筆と認められていない作品や、所在が知られていない作品も、当時は雪舟画として受容され、画家像の形成に一役買っていたのです。
雪舟とはどんな人?
雪舟(1420~1506 ?)は、備中国赤浜(現在の岡山県総社市)に生まれた人です。幼い頃に上洛して相国寺に入り、禅僧としての修行を積むかたわら、室町幕府御用絵師であった周文に画を学びました。
やがて周防(現在の山口県)に下り大内氏の庇護を得ると、応仁元年(1467)に遣明使節の一行に加わり入明を果たしています。足掛け三年に及ぶ在明ののち帰国したあとはあ、はじめ豊後(現在の大分県)、のち再び周防を主な拠点としながら旅を重ね、宋元画を学んだ幅広い画風と骨太で力強い筆墨に特色ある作品を残しました。
「画聖」としての雪舟
◉雪舟は、六件もの作品が国宝に指定されています。これは、狩野永徳の四件を凌ぎ、一人の画家としては最も多い指定件数です。雪舟に対する評価が、いかに突出したものであるかがわかります。
◉少年時代に寺で叱られた雪舟が、「涙でネズミの絵を描いた」という有名なエピソードは、江戸時代に語られるようになりました。巨匠につきものの、天才伝説の類と思われますが、それだけ偉大な存在と認識されていたことの証といえます。
◉一九五五年にウィーンで開催された世界平和評議大会において、雪舟が世界十大文化の一人に選ばれました(他はレンブラント、モーツァルト、ドストエフスキーなぢ)。没後四五〇年を経て、雪舟はついに「世界の雪舟」となったのです。
【展覧会開催概要】
展覧会名:特別展 雪舟伝説 ー「画聖(カリスマ)」の誕生ー
前期:4月13日(土)~5月6日(月・休)
後期:5月8日(水)~5月26日(日)
※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替を行います。
開館時間:午前9時ー午後5時30分 ※入館は閉館30分前まで
休 館 日:月曜日
※ただし、月曜日が祝日・休日の場合は開館し、翌火曜日休館。
主 催:京都国立博物館、日本経済新聞、テレビ大阪、京都新聞
展覧会公式サイト: https://sesshu2024.exhn.jp
京都国立博物館 平成知新館 京都市東山悪茶屋町527
●お問合せ:075-525-2473(テレホンサービス)
●HP: https://wwwkyohaku.go.jp/